富士フイルム スキンケア研究 最前線
写真分野で培った画像解析技術を応用して解明。
毛穴と「立毛筋」の関係。
- 宇田 謙
- バイオサイエンス&エンジニアリング研究所
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そもそも毛穴にフォーカスした研究が始まったのは、なぜでしょうか?
- 宇田
- 毛穴に関する肌悩みは多く、毛穴ケアアイテムもたくさんありますが、根本的に解決するアプローチがありませんでした。多くは、ビタミンCに代表されるようなコラーゲンを生成してハリを出すなどの副次的な効果を用いたものです。そこで、当社は新たなアプローチで毛穴ケアの研究ができないか考えました。
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「立毛筋」に注目されたきっかけはなんですか?
- 宇田
- 毛穴に直接アプローチできる方法を探すため、毛穴周辺の組織を確認していく過程で、「立毛筋」という毛穴の開閉を担う組織の存在に着目したことがきっかけです。「立毛筋」という組織自体は知られていましたが、「肌内部でどのように存在しているのか」「どれほど毛穴と密接な関係にあるのか」については、詳細は明らかになっておらず、まず「立毛筋」の可視化に取り組みました。富士フイルムの画像解析技術を応用することで、毛穴周辺の組織を3次元で可視化することに成功。これによって、「立毛筋が毛穴と密接に関係していること」がわかり、毛穴のたるみやゆるみにも大きく影響しているのではと考え、本格的な研究をスタートさせました。
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今回の研究でわかった、立毛筋と毛穴の開きの関連性を教えてください。
- 宇田
- 正常な立毛筋と、機能が低下した立毛筋を比べると、肌の引き締め力に差があることが分かりました。したがって、立毛筋の機能は毛穴の開きに大きく関連していると考えられます。実際に、立毛筋が機能する「鳥肌」では、開いた毛穴がキュッと閉じる現象を多くの人が体感していると思います。加えて、立毛筋はコラーゲンをたっぷり含む真皮と絡み合って存在しているため、筋肉の伸縮力が弱まるとコラーゲン自体もゆるみ、肌のたるみにもつながると考えられます。
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今回着目された成分「黒胡椒由来の成分」の効果とは、どのようなものですか?
- 宇田
- 立毛筋を構成する平滑筋細胞は、老化により筋力が衰えますが、その原因は「ストレスファイバー」と呼ばれるタンパク質が過剰に蓄積されるためです。そこで、この「ストレスファイバー」を減少させる成分をスクリーニングし、「黒胡椒由来の成分」にその効果があることを発見しました。
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「黒胡椒由来の成分」の効果を引き出すための仕組みを教えてください。
- 宇田
- 毛穴には皮脂(オイル)が多く、成分を毛穴内部に浸透させることが難しかったため、皮脂に馴染みやすいオイルを選定して「黒胡椒由来の成分」を溶かし、毛穴との親和性を高めました。さらに、写真フィルムで培ったナノテクノロジーを応用し、成分をナノサイズに極小化することで、毛穴への浸透性を高めています。
- 開発した成分が実際に毛穴の奥まで確実に届くことも実証しました。当社では、「効果」のある成分を「確実」に局所に届けるところまでしっかり確認しています。
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毛穴への効果をさらに高めるための開発にも拘られたとのことですが、どのようなものですか?
- 宇田
- 毛穴に対するアプローチでは、「体感」と「成分の効果」の2つの側面から、効果を最大化する開発にも力を入れました。それが、泡がパチっと弾けた後、ジェルに変化する「泡ジェル技術」です。
- 最初に、泡が肌の上でパチっと弾けて毛穴に心地よい刺激を与え、次に、液の冷却効果で毛穴を冷やすことでキュッと引き締まる体感が得られます。その後、肌の上に停滞しやすいジェルに変わることで、冷却効果を維持しなから、ジェルに含まれる成分を毛穴まで浸透させる設計です。
- この開発にはとても苦労しました。一般的なムースのような泡は、一つひとつが小さく膜が薄いため、成分を十分に配合することができません。そこで、分厚い膜にたっぷりと成分を配合できる大きな泡の開発にチャレンジしました。
この開発にも、写真フィルムの製造で培った技術を応用しています。写真フィルムはコラーゲンのベースフィルムに、溶剤を薄く塗布して製造していますが、その過程で泡が発生すると不良品になってしまいます。そのため、泡を発生させないための知見があり、その知見を応用して、独自の泡の開発に成功し、泡からジェルに変わるという独自の「泡ジェル技術」を完成させることができました。
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研究開発において、大切にしていることを教えてください。
- 宇田
- 富士フイルムならではの着眼点と技術によって、独自性の高い研究開発を心がけています。私たちはもともと写真フィルムを開発していた会社です。その利点を活かして、化粧品開発という領域を超えて、他分野で培ってきた技術や知見を応用して、お客さまに喜んで頂ける商品開発に繋げていけたらと思っています。
- 例えば、私たちの研究所は居室が区切られておらず、会議用のオープンスペースも充実しています。これによって、他の部門の研究員と垣根なく気軽に相談でき、他分野の技術・知見を応用できる機会に繋がっています。医療、画像解析、皮膚科学、製剤開発、それぞれの分野で最先端の技術を持っている研究員が連携することによって、シナジー効果が生まれ、独自性の高い商品開発に繋がると考えています。
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「NEVER STOP 挑戦だけが、未来をつくる。」を掲げる御社の姿勢を踏まえ、
今後挑戦していきたいことをお聞かせください。 - 宇田
- 今回の発見は、世界でまだ見たことのない現象を解明し、毛穴に対する根本解決を提案する、という挑戦から生まれました。このように、”知的好奇心”と”お客さまに喜んで頂くこと”を本気で考えながら貪欲に科学に挑戦し続けたからこそ、新たな発見に繋がったと考えています。今後も挑戦を決して止めず、独自着眼に基づいた富士フイルムにしかできない化粧品開発を進めていきます。
研究員プロフィール
- 宇田 謙
- Ken Uda
- バイオサイエンス&
エンジニアリング研究所 - 入社以後、医薬品研究部門で医療用医薬品の基礎研究に携わり、某大学の医学部へ出向。血液学分野で世界的権威のある医学雑誌に研究内容が掲載された。
2016年からは美白成分を中心とした化粧品開発、メラニン関連の皮膚科学エビデンス研究に従事。近年では立毛筋に関する研究を計画・立案し、新商品開発へとつなげる。
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