抗酸化成分「アスタキサンチン」をナノ乳化した「ナノアスタキサンチン」を経口摂取すると、 紫外線によって生じる角膜の炎症が抑制されることを確認
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富士フイルム株式会社(社長:助野 健児)は、北海道医療大学 北市伸義教授と共同研究を行い、抗酸化成分「アスタキサンチン」を当社の独自技術でナノ乳化した「ナノアスタキサンチン」*1を経口摂取すると、紫外線B波(波長280-315nmの紫外線。以下UVB)の照射によって生じる角膜の炎症が抑制されることをマウスで確認しました。また、ナノアスタキサンチンは、抗酸化成分「ルテイン」*2、「ビルベリーエキス」*3と比較して、角膜の炎症を抑制する作用が高いことも確認しました。なお、本研究成果を、平成28年9月24日に富山県富山市で開催される「第12回 アスタキサンチン研究会」にて発表いたします。
研究背景
当社はこれまでに、高い抗酸化力を有する成分アスタキサンチンに、コエンザイムQ10の約1,000倍*4の抗酸化力があることを実証してきました。また、アスタキサンチンと亜鉛を同時摂取すると、睡眠改善効果*5があることも確認しています。この他にも、アスタキサンチンには筋肉疲労回復作用*6や眼精疲労の回復作用*7など様々な効果効能があることが報告されています。
今回、当社は、UVBを浴びることで生じる雪眼炎*8などの角膜障害の原因が、角膜に生じた活性酸素による炎症であることに着目。優れた活性酸素除去能を持つアスタキサンチンを、独自技術でナノ乳化し、体内への吸収率を向上させたナノアスタキサンチンを用いて、角膜の炎症抑制効果について研究を進めました。
実験内容
(1) 1群あたりのマウスの数を5匹として、[1]~[5]の群を作成。UVB照射3時間前と照射直前に、[3]にナノアスタキサンチン(16.7mg/kg)、[4]にルテイン(16.7mg/kg)、[5]にビルベリーエキス(334mg/kg)の各抗酸化成分を経口摂取させ、[2]~[5]のマウスの眼球に、延べ400mJ/c㎡(真夏の屋外で、太陽を1時間直視した場合に浴びる紫外線量に相当)のUVBを照射しました。
- [1] UVBを照射しない「UVB照射なし群(対照群)」
- [2] 何も与えず、UVBを照射する「UVB照射群」
- [3] 「ナノアスタキサンチン摂取+UVB照射群」
- [4] 「ルテイン摂取+UVB照射群」
- [5] 「ビルベリーエキス摂取+UVB照射群」
(2)UVB照射から24時間後、[1]~[5]の各マウスの角膜上皮細胞の生存率、角膜上皮の厚さ、炎症性細胞の働きを活性化させる細胞内物質「NF-κB(エヌエフカッパービー)」*9の細胞核内への移行数、活性酸素の抑制効果を測定し、各群の平均値を比較しました。
実験成果
ナノアスタキサンチンを経口摂取したことによって、UVB照射後に角膜に生じる活性酸素が軽減され、角膜の炎症が抑制されました。また、その作用が、ルテインとビルベリーエキスよりも高いことを確認しました。
【図1】角膜上皮細胞の生存率
UVBを照射すると、角膜の生体組織にある酸素が活性酸素に変換され、その強い毒性によって、角膜上皮細胞が死んでしまいます。
「UVB照射群」では角膜上皮細胞の生存率が30%に下がるのに対して、「ナノアスタキサンチン摂取+UVB照射群」では生存率が56%となり、「UVB照射なし群(対照群)」の生存率79%に大きく近づくことを確認しました。なお、角膜上皮細胞の生存率は、「ルテイン摂取+UVB照射群」では33%、「ビルベリーエキス摂取+UVB照射群」では26%であり、ほとんど効果が見られませんでした。
【図2】角膜上皮の厚さ
UVBを照射することで生じた角膜上皮の死細胞が剥がれると、角膜上皮は薄くなります。
「UVB照射群」では角膜上皮の厚さが12.1㎛となるのに対して、「ナノアスタキサンチン摂取+UVB照射群」では厚さが16.7㎛となり、「UVB照射なし群(対照群)」の角膜上皮の厚さ21.0㎛に大きく近づくことを確認しました。なお、角膜上皮の厚さは、「ルテイン摂取+UVB照射群」では12.2㎛、「ビルベリーエキス摂取+UVB照射群」では12.0㎛であり、ほとんど効果が見られませんでした。
【図3】NF-κBの核内移行数
紫外線によって、活性酸素が生じることで細胞内物質「NF-κB」が細胞核内に移行し、炎症性細胞の働きを過剰に活性化させ、角膜に炎症が生じます。 NF-κBを蛍光染色し、各群の核内移行数の平均値を調べたところ、「UVB照射群」が15.2個であるのに対し、「ナノアスタキサンチン摂取+UVB照射群」では8.1個まで抑制され、「UVB照射なし群(対照群)」の1.8個に近づくことを確認しました。なお、「ルテイン摂取+UVB照射群」は14.1個、「ビルベリーエキス摂取+ UVB照射群」は14.8個であり、「UVB照射群」と大きな差はありませんでした。
【図4】角膜上皮の活性酸素抑制効果
各群において、NF-κBの核内移行(NF-κBの活性化)の原因である活性酸素が、細胞の周辺に生じる量を目視で確かめるために、ヒトの細胞の核の中にあるDNAを青色に染色する蛍光色素「DAPI」と、活性酸素を赤色に染色する蛍光色素「DHE」で、角膜上皮を染色し、蛍光顕微鏡で観察しました。
「UVB照射なし群(対照群)」は、細胞(DNA)がある場所に活性酸素が発生していませんが、「UVB照射群」は活性酸素が発生しています。
「ナノアスタキサンチン摂取+ UVB照射群」は活性酸素が少量ですが、「ルテイン摂取+ UVB照射群」と「ビルベリーエキス摂取+ UVB照射群」は、「ナノアスタキサンチン摂取+UVB照射群」と比べて、活性酸素の存在が顕著に分かります。
富士フイルムは、今後もアスタキサンチンの優れた抗酸化力に着目して、健康における効果効能やメカニズムについて研究を進めていきます。
<アスタキサンチン>
自然界に広く分布している天然由来の抗酸化成分で、サケやエビ、カニなどに多く含まれるカロテノイドの一種。ヘマトコッカス藻あるいはオキアミを原料としたアスタキサンチンが、機能性食品の原材料として使われている。トマトのリコピンや人参のβ‐カロテンなどのカロテノイドは、活性酸素を除去する抗酸化作用をもつ成分として知られているが、アスタキサンチンは、これらのカロテノイドよりも強い抗酸化作用をもつ成分として、注目されている。
<ルテイン>
アスタキサンチンと同様に、強い抗酸化作用を持つカロテノイドの一種。ほうれん草やブロッコリーなどの緑黄色野菜に多く含まれる成分で、特に眼の網膜の黄斑部(光を感受する場所)に存在しており、眼が正常に機能するために重要な働きを果たしている。
<ビルベリーエキス>
抗酸化作用を持つアントシアニンというポリフェノールを含有しているブルーベリーの一種であるビルベリーから抽出したエキス。強い抗酸化力によって、夜間視力の低下、眼精疲労など、様々な目のトラブル予防に効果がある。
*1 優れた抗酸化力を有する成分「アスタキサンチン」の乳化物を、当社の独自技術で約100nm以下のサイズにしたもの。
*2 ほうれん草などに含まれるカロテノイドの一種。もともと眼の網膜の黄斑(光を感受する場所)に存在している成分で、強い抗酸化作用を持つ。
*3 ポリフェノールの一種。目の健康に良いとされているアントシアニンを含有しており、抗酸化作用を持つ。
*4 当社調べ。J. Mori, H. Yokoyama, T. Sawada, Y. Miyashita and K. Nagata, Mol. Cryst. Liq. Cryst. 580(1),2013, 52-57
*5 平成26年7月 第39回日本睡眠学会学術集会で報告。
*6 澤木啓祐 「アスタキサンチンのスポーツパフォーマンスに及ぼす影響」臨床医薬、18、1085、2002 で運動選手の筋肉疲労の回復が早まる、などが報告されている。
*7 アスタキサンチンの効果は数多く報告されており、ピント調節力が改善する(富山医科薬科大学眼科による試験)、ピント調節にかかる時間が短い(藤田保健衛生大学眼科による試験)などが報告されている。
*8 紫外線によって起こる表層角膜炎。例えば、スキー場、海水浴場、高山など紫外線の強い場所で角膜が直接紫外線に曝された場合に起こる。
*9 炎症性細胞の働きを活性化させる細胞内物質。通常、細胞内に不活化した状態で存在するが、紫外線やストレスなどによって活性化され、核内に移行し、炎症性細胞の働きを活性化させる。