「サラシア」のヒトにおける免疫力向上メカニズムを解明
~血液細胞の免疫関連遺伝子の発現が増加~
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富士フイルム株式会社(社長:中嶋 成博)は、糖の吸収抑制効果があることで知られるサラシア属植物の、ヒトの免疫力に対する作用に関して、東京医科歯科大学(廣川 勝昱名誉教授)、東京大学(阿部 啓子名誉教授・神奈川科学技術アカデミー(KAST)プロジェクトリーダー)と共同で試験を行いました。その結果、サラシア属植物抽出エキス(以下「サラシア」)を摂取することにより、血液細胞の免疫関連遺伝子の発現が増加*1することが分かりました。これは、「サラシア」の摂取によりヒトの免疫力が向上することを示すものです。
一般的に、ヒトの免疫力は、腸内細菌叢*2が変化し、細菌が腸管免疫系に作用して免疫バランスが調整されることで、高まると言われています。
当社はこれまで、「サラシア」を摂取すると、腸内の善玉菌が増加し悪玉菌が減少すること、免疫力の指標とされウイルスなどの異物に反応して体内でつくられるT細胞*3やナイーブT細胞*3が増加すること、をヒト試験で確認してきました。
今回、「サラシア」を摂取すると、血液細胞の免疫関連遺伝子の発現が増加することを、新たに確認しました。また同時に、腸内の善玉菌が増加し悪玉菌が減少すること、T細胞やナイーブT細胞が増加することも改めて確認しています。今回の研究結果から、「サラシア」を摂取することで、腸内細菌叢の変化が起こり、血液細胞の免疫関連遺伝子の発現が増加し、その結果、免疫細胞が増加していることが分かりました。
当社は、今後も、健康増進につながるサラシア属植物をサプリメントに応用していくとともに、さらなる機能の解明を進めていきます。
なお、本研究内容を、平成26年10月16日から開催される日本食品免疫学会 設立10周年記念大会(JAFI 2014)にて発表します。
「サラシア」とは
インドやスリランカなど南アジア地域に自生するデチンムル科のサラシア属植物(Salacia reticulata、Salacia oblonga、Salacia chinensis等)の総称です。インドに古くから伝わる伝承医学(アーユルヴェーダ)においては初期の糖尿病治療に使用されてきました。最近では、サラシア属植物抽出エキスに含まれるサラシノール、コタラノール等が、腸内でオリゴ糖の分解を促進する酵素(α-グルコシダーゼ)の活性を阻害することが確認されています。この作用により、サラシア属植物抽出エキスを摂取することで小腸での糖の吸収が抑制され、血糖値上昇を抑える効果があることが明らかになっています。
*1 遺伝情報は、メッセンジャーRNA(DNAの情報を伝える役割をもつRNA)を経て、タンパク質へ翻訳され、機能を発揮します。発現とは、メッセンジャーRNAの合成量のことを指し、発現を測定することにより、生体内での作用を評価することができます。
*2 健康なヒトの腸内には、100種を超える、総数で100兆個の腸内細菌がバランスを保ってすみついています。特に小腸の終わり(回腸)から大腸にかけては、腸内細菌が種類ごとにまとまりを作ってびっしりと敷き詰められたような状態で生息しています。このような細菌の生態系を腸内細菌叢と呼びます。また、その状態は「花畑」にたとえられて、「腸内フローラ」とも呼ばれます。腸内細菌叢は食習慣・年齢・ストレスなどにより変化し、バランスが崩れると病気やアレルギーの原因になるとされています。
*3 T細胞はリンパ球の一種で、ウイルスや病原菌を認識し、ほかの免疫細胞の活性化や異物排除を行います。T細胞は、体内にウイルスなどの異物が侵入すると、それに反応して体内でつくられます。T細胞にはいくつかの種類があり、それぞれ働きが異なります。T細胞の1つであるナイーブT細胞は、今まで罹患したことのないウイルスや病原菌が体内に入ったときの免疫機能活性化や異物排除に重要な役割を果たします。体内のナイーブT細胞数は加齢に伴い減少することが知られています。なお、リンパ球は白血球の一種です。
研究の背景
当社はこれまで、「サラシア」を摂取することで、ヒトの腸内環境が改善されること、新たな外敵から体を防御するナイーブT細胞が増加することを明らかにしてきました。また、「サラシア」の投与によるインフルエンザ感染時の症状軽減作用についても、マウスを用いた試験により実証しています。
今回さらに、「サラシア」摂取によるヒトの免疫力向上の作用メカニズムを解明するため、血液細胞の遺伝子の発現変動を確認しました。血液細胞には免疫関連遺伝子が多く含まれるため、その発現変動を測定することでヒトの免疫力の変動を確認できると考え、試験を実施しました。
実験方法
健常な50歳以上60歳未満の男性30名を対象とし、「サラシア」摂取群(15名)と、「サラシア」を含まないプラセボ食摂取群(プラセボ群、15名)に分け、二重盲検並行群間比較法*4で試験を実施しました。サラシア摂取群には、サラシアを1日あたり240 mg、プラセボ群にはプラセボ食品を4週間継続して摂取させました。それぞれ摂取前と摂取後に採血・糞便の採取を行い、以下の3つの項目について測定を実施しました。
- (1)サラシア摂取群を対象とした、血液細胞の発現変動した遺伝子数の測定
- (2)腸内細菌叢の測定(T-RFLP法*5)
- (3)T細胞増殖係数*6の測定
結果
(1)血液細胞の免疫関連遺伝子の発現が増加
「サラシア」を摂取すると、摂取前と比較して、血液細胞の2,065遺伝子の発現が変動することを確認しました*7。発現変動した遺伝子を生物学的機能に応じて分類したところ、多数の免疫関連遺伝子、特に細胞性免疫(Th1細胞)に関わる遺伝子が発現増加していました*8。
(2)腸内細菌叢が変化
「サラシア」の摂取により、大腸内で善玉菌が有意に増えて悪玉菌が有意に減ることが確認できました(図1)。
(3)T細胞増殖係数が向上
「サラシア」の摂取により、T細胞増殖係数がプラセボ群と比較して有意に向上し、外敵に対する防御能力が高まることを確認しました(図2)。
今回の研究から、血液細胞の免疫関連遺伝子の発現が増加すること、つまり、「サラシア」がヒトの免疫機能に作用することを新たに確認し、「サラシア」摂取によるヒトの免疫力向上メカニズムを解明することができました。
*4 プラセボ効果や観察者の心理的な影響を防ぐことを目的として、被験者を被験食摂取群と対照食(プラセボ食)摂取群に無作為に割り付け、被験者も試験実施者もどちらの群が被験食を摂取しているかわからない状態で行う試験を、二重盲検試験といいます。また、同時期に被験食または対照食を摂取する手法を、並行群間比較法といいます。
*5 Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism法。遺伝子検査により細菌を判別する手法で、腸内細菌叢のプロファイリングを高感度かつ簡便に行うことができます。
*6 外敵に対する防御能の指標のひとつ。数値が大きいことは防御能が高いことを示します。具体的には、T細胞を含む組織液を培養し、抗原刺激を与え、それによって増殖するT細胞数を計測することで求められる数値です。このT細胞増殖能を用いてT細胞増殖係数を算出します。T細胞増殖能からは細胞ごとの増殖能、T細胞増殖係数からは被験者ごとの細胞増殖能を知ることができます。
*7 「サラシア」摂取群15名の内、無作為に7名を抽出した結果となります。
*8 細胞性免疫は、T細胞が関係する免疫系で、細胞内に寄生する細菌やウイルスなどの異物排除を担当します。生体内の免疫機能は細胞性免疫や液性免疫など免疫系のバランスにより成り立っているとされています。細胞性免疫はアレルギー症状の予防や軽減に関わるとされています。