「サラシア」の優れた腸内環境改善作用をヒト試験において実証
ビフィズス生菌、オリゴ糖摂取に比べ、腸内フローラ*1が大きく改善!
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富士フイルム株式会社(社長:古森 重隆)は、糖の吸収抑制効果があることで知られる「サラシア」に、腸内環境改善効果が高いと報告されているビフィズス生菌やオリゴ糖と比べて、5~10倍の優れた腸内環境改善作用があることを、健常成人を対象としたヒト試験において腸内細菌の遺伝情報をもとに解析し、新たに実証しました(図1参照)。
善玉菌を活性化させるものを直接摂取して腸に届け、整腸に繋げるというビフィズス生菌やオリゴ糖の整腸メカニズムと異なり、「サラシア」はα-グルコシダーゼ*2の活性阻害による糖吸収抑制効果で、食事に含まれる糖質を小腸で吸収させずにそのまま大腸へ届け、善玉菌を活性化するという特徴的なメカニズムで腸に作用します。腸内環境が適切な状態に改善されると、免疫力が適正に調整されるなど、さまざまな形で健康増進につながります。
当社は、写真感光材料の開発研究で長年にわたり蓄積してきた多彩なコア技術をベースにヘルスケア分野へ事業参入しました。これまでに、さまざまな有用成分を当社独自の技術で高濃度に抽出・安定化することや、吸収を高めることに成功しています。
今後も引き続き、サラシアなどの成分の有用性を追求して独自の商品化を進めます。
なお、本研究内容を、平成22年5月22日、第64回日本栄養・食糧学会大会にて発表いたします。
*1 腸内細菌叢(そう)。健康な人の腸内には100種を超える、総数で約100兆個の腸内細菌がバランスを保って住みついています。特に小腸の終わりから大腸にかけては、腸内細菌が種類ごとにまとまりを作ってびっしりと敷き詰められ生息している状態なので、「花畑」にたとえて「腸内フローラ」と呼ばれています。腸内フローラではビフィズス菌や乳酸菌など、健康によい働きをする善玉菌と、ウェルシュ菌や大腸菌など、悪臭のもととなる腸内腐敗物質を生み出し健康に有害な働きをする悪玉菌が、絶えず勢力争いを行っており、このバランスが健康状態を左右していると言われています。これらの善玉菌は乳酸や酪酸などの有機酸を作るものが多く、逆に悪玉菌は有機酸の多い環境(pHの低い環境)では生育しにくいものが多いことがわかっています。
*2 ヒトでは膵臓(すいぞう)や小腸上皮細胞から消化酵素として分泌され、腸内でオリゴ糖をブドウ糖などへの単糖に分解するのを促進する酵素。
サラシアとは
インドやスリランカなど南アジア地域に自生するデチンムル科のサラシア属植物(Salacia reticulata、Salacia oblonga)の総称で、インドに古くから伝わる伝承医学(アーユルヴェーダ)においては糖尿病治療に使用されてきました。最近では、サラシア抽出エキスに含まれるサラシノール、コタラノールが、腸内でオリゴ糖の分解を促進する酵素(α-グルコシダーゼ)の活性を阻害することが確認されており、サラシア抽出エキスを摂取することで、小腸での糖の吸収が抑制され、血糖値上昇を抑える効果があることが明らかになっています。
研究の背景
当社はこれまで、サラシア抽出エキスを摂取することで、腸内のpH低下、腐敗産物やアンモニアを減少させるなどの腸内環境改善の効果があることを実証しています。今回、サラシア抽出エキスに対し、これまで腸内環境改善効果が報告されている代表的なビフィズス生菌(プロバイオティクス*3)、オリゴ糖(プレバイオティクス*4)を摂取後、それぞれの腸内フローラを解析し、改善傾向を比較調査しました。
*3 「腸内フローラのバランスを改善することにより、宿主に有益に作用する微生物(=腸内有用菌)、およびそれらで構成される食品」と定義されます。乳酸菌、ビフィズス菌などの生菌およびそれらを含有した食品が相当します。予防医学に基づいてプロバイオティクスの働きを健康に生かすという考え方は、ヨーロッパを中心に、予防医学の重要性の認識と抗生物質治療の限界を背景として定義されました。
*4 「大腸に常在する腸内有用菌(善玉菌)を増殖させるか、あるいは有害な細菌(悪玉菌)の増殖を抑制することで宿主に有益な効果をもたらす難消化性成分およびそれらで構成される食品」と定義されており、オリゴ糖類やアミラーゼ抵抗性デンプン、食物繊維およびそれらを含有した食品が相当します。
<具体的な実験方法および結果>
実験方法
- (1) 対象 : 20歳以上、59歳以下の健常成人30名(各成分につき10名ずつ)
- (2) 試験方法 : サラシア抽出エキス含有試験品、および市販機能性食品2種の3成分をおのおのの摂取方法で4週間摂取(表1参照)。摂取前、摂取から1週間後、2週間後、4週間後に回収した糞便からDNAを抽出し、T-RFLP法*5を用いて腸内フローラを解析しました。
表1
グループ | 被験品および対照品 | 摂取量/日 | 摂取方法 |
---|---|---|---|
1 | サラシア抽出エキス末60mg錠 | 60mg錠×4=240mg | 食事前(朝1、昼1、夕2) |
2 | 市販品ヨーグルト(ビフィズス生菌入り) | 80g(ビフィズス菌量=6.0E+10) | 1日1回 |
3 | 市販品オリゴ糖(フラクトオリゴ糖顆粒) | 2.3g×3=6.9g | 毎食事時、水に添加(朝1、昼1、夕1) |
*5 Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism法。腸内フローラの解析(プロファイリング)を高感度かつ再現性良く、簡便に行う方法。従来、腸内フローラの解析は、各細菌種の選択培地と嫌気培養により細菌数測定する方法が主流でしたが、再現性が悪くまた腸内フローラに属するすべての細菌種を単離培養することは不可能でした。 T-RFLP法では、糞便から抽出したDNAを鋳型として、rRNA遺伝子上の全細菌に共通な配列を対象とした末端蛍光標識したプライマーセットでPCR増幅し、制限酵素による消化後、フラグメント解析を行います。これにより、T-RFLP法では腸内フローラに属するほぼすべての細菌を対象に、高感度かつ再現性良く、解析(プロファイリング)が行えます。今回の解析でも、クロストリジウム属の解析はその類縁菌を含めて実施しています。
図2 Bifidobacterium属(ビフィズス:善玉菌)とClostridium属(クロストリジウム:悪玉菌)の量の変化