ART

2023.09.29

劇場での女性の装いを描写
ベルト・モリゾ

劇場での女性の装いを描写

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PAINTER

ベルト・モリゾ

1841年、フランスの高級官僚の家に生まれる。姉とともにコローに師事し、マネと出会う。33歳のときにマネの弟ウジェーヌと結婚、同年第1回印象派展に参加(8回開かれた同展のうち7回参加)。娘を出産後も夫の協力を得て画業を続けるが、54歳の若さで世を去った。

劇場での女性の華やかな装いを描いて人気に

『舞踏会にて』で描かれたシルクのドレスを着た若い女性は、髪と胸元にお揃いの花飾り、手袋、扇とドレスアップして、華やかな舞踏会へと出かける装い。扇にはロココ調の絵柄が描かれており、ドレスには上質なシルクのなめらかな質感も感じられます。ただ、この女性のいる場所は舞踏会ではなく、作者ベルト・モリゾの自宅であると推測されています。

劇場での女性の華やかな装いを描いて人気に

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▲モリゾの時代は劇場の格によって女性が身につけるべき装いが決まっていた。

見られる対象ではない女性の真の姿を描き出した女性画家

印象派の代表的な女性画家であるモリゾは、舞踏会や劇場に行く服装をした女性たちを主題に何点もの作品を描いています。ルノワールやマネが同主題で描いた作品では会場の雰囲気が伝わるものが多いのに対し、モリゾは女性自身の姿を描きました。これはモリゾに、当時の舞踏会や劇場で男性に“見られる”対象であった女性ではなく、女性自身の真の姿を描きたいという想いがあったからだと考えられています。『舞踏会にて』の女性の視線が正面ではないのも、“見られる”対象として描かれていないことを示しています。

19世紀、女性の服装は細かなドレスコードが決められていました。夜の外出において、例えばどの劇場に行くのかによっても服装の決まりが異なり、煩わしいものでもありました。しかし、モリゾは劇場に行くための支度をする女性をあえて描き、化粧や身支度を男性のためではなく、自分のために行う女性の意思も表現したのです。そんなリアルな女性像は、現代も多くの人々を魅了しています。

美への影響

手袋や帽子、扇などセンスのよい小物使いが魅力

手袋や帽子、扇などセンスのよい小物使いが魅力

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ベルト・モリゾは装いやファッションをテーマにした作品を多く描いており、当時のドレスコードに従った華やかな装いの女性を描いた作品は特に人気を呼びました。とりわけ、手袋、扇、チョーカーなどの小物やアクセサリーの使い方に、ブルジョワ家庭で育ったモリゾのセンスのよさが光ります。小物の巧みな使い方は現代の女性にとってもヒントとなりそうです。

Text:森 菜穂美