Interview

「届け人」だから実現できた

独自の単層リポソーム技術

金海 俊

富士フイルム バイオサイエンス&エンジニアリング研究所

  • 2015年

    富士フイルム入社
    医薬品の研究開発部門でドラッグ・デリバリー・システム技術としてのリポソームを研究。

  • 2020年

    化粧品分野の研究開発を開始。単層リポソーム技術の開発などを担当。

  • 医療分野の発想で
    スキンケアに新たな浸透技術を

    研究分野を医薬品から化粧品に変更した当時は、今までにない新たな浸透技術開発への挑戦が始まったばかりでした。開発テーマは、「肌の必要な部分に届けることが難しかった水溶性の有効成分を届ける」こと。そこで入社以来、医薬品向けに研究してきたリポソームを活用できないかと考えました。
    実は医薬品用のリポソームは、化粧品で使われる一般的なリポソームとつくりも役割も大きく違います。一般に化粧品用リポソームは「多層リポソーム」。素材であるリン脂質がたまねぎ状に重なっており、保湿効果などもたらすことが期待されています。一方、医薬品用「単層リポソーム」は、カプセルのようなリポソームの内部に薬を入れ、患部まで無事に届けることが役割です。この「薬」を「成分」に変えれば、医薬品用とされていた「単層リポソーム」でも化粧品において保湿効果に加えて浸透技術としてもつかえるはず――そんなふうに考えたのです。

  • 徹底的な試作と検証で
    新しい技術を形に

    とはいえ、課題は山積みでした。まず、法律の規定などにより医薬品と化粧品では使える材料が大きく異なります。また、点滴で投与する医薬品と違い、スキンケアは肌に使うもの。角層とうまくなじんで、肌の内部に届かなくてはなりません。こうした条件をクリアするため、医薬品用と似た構造を持ち、スキンケアにも使える物質を多数リストアップ。これは、幅広い事業を行ってきた富士フイルムにしかできないことでした。そして、完全なカプセル状になるまで100回以上も試作と検証を繰り返し、独自の「単層リポソーム」の姿を探っていきました。

  • 浸透をコントロールして
    有効成分を確実にお届け

    こうしてできあがった独自の単層リポソームの最大の特徴は、浸透する先をコントロールできること。肌のハリやシミに関連する成分は表皮に、皮膚の弾力やシワに関わる成分はその下の真皮に届ける必要があります。そこで、リポソームの膜や有効成分の配合を細かく調整した結果、成分が表皮にとどまるリポソームと真皮まで浸透するリポソームの2種類をつくることに成功しました。有効成分がそれぞれ狙った場所まで確実に届くので、より大きな効果が期待できます。

  • お客さまに新しい価値を
    届けていきたい

    富士フイルムに入社してから、医薬品でもスキンケアでも「必要な成分を届けるべきところに届ける」ことをひたすら追求してきました。そんな自分を、私は「届け人」だと思っています(笑)。どんなに良いものでも、必要とされているところに届かなければ生かせません。肌に有効成分を届けるだけでなく、その技術をスキンケアという形でお客さまに届けたい――それが自分の役割だと思っているんです。
    重要なのは、お客さまが今一番必要としているものは何か、を知ること。そして、常識にとらわれず考えること。型破りなアイデアを実現するには、多種多様な分野のエキスパートがいて、惜しみなく協力しあえる富士フイルムという環境は、まさにうってつけなんです。これからも、富士フイルムのポテンシャルを目いっぱい活用して、お客さまに新しい価値を届け続けていきたいです。

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